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札幌高等裁判所 昭和51年(ネ)353号 判決 1978年7月31日

控訴人(被告) 釧路交通株式会社

被控訴人(原告) 加賀谷毅 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  控訴人は、「一 原判決を取消す。二 被控訴人らの請求を棄却する。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

二  被控訴人らは、主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

控訴人が左記一のとおり述べ、被控訴人が左記二のとおり述べたほかは、原判決事実摘示のとおり(但し、原判決書二枚目表一〇行目の「就労日数」を「出勤日数」に改め、原判決書三枚目表七行目の「基本給」を「基本給(月額)」に改め、原判決書別表の「就労日数」を「出勤日数」に改める。)であるからこれを引用する。

一  控訴人は、次のとおり述べた。

(一)  仮りに、労働基準法(以下「労基法」という)第三九条一項にいう「全労働日」の中にストライキのため就労しなかつた日が算入されるべきでないとしても、それはストライキが正当なものである場合に限るものというべきである。

しかるに被控訴人らが組合員として所属する訴外釧路交通労働組合(以下、単に「釧労」という)の行なつた本件ストライキは、次に述べるとおり違法なものであつたから、本件ストライキによる被控訴人らの不就労日数は、「全労働日」の中に算入されるべきである。

控訴人は、昭和五〇年三月当時、従業員一四四名、車両五三台でハイヤー、タクシー業を営む小規模の会社であつたが、右同月末日決算においては、当期損失金が約八六〇万円、繰越損失金が約一億二〇〇〇万円に達して、その経営は破綻し、その程度は、昭和五〇年四月三〇日に前経営者がその持株全部を譲渡して退陣した程に深刻であつた。そこで、控訴人の経営を立て直すためには、釧労の協力ないし節度が必要不可決であつた。ところが、釧労は、昭和五〇年三月末頃から春闘として、控訴人に対し基本給四万円アップ等の過大な要求をした。それで、控訴人としても会社案を用意し、これを釧労に提案した。ところが、釧労は、右提案を一顧だにせず、右の過大要求に固執し、遂にはこれを実現させるためと称して、その所属組合員に昭和五〇年六月八日から同年一〇月二五日までの長期に亘る本件ストライキを指令し、実施させた。ところが、本件ストライキは、結局その目的を実現することができず、昭和五〇年一一月一一日に控訴人と釧労との間で、控訴人が先になした提案と全く同一の条件で協定が締結された。右の経過からも明らかなように、本件ストライキは、その目的が不当なばかりでなく、その手段、態様等が常軌を逸し違法なものというべきである。

(二)  被控訴人らの後記(二)の主張について

右主張前段は争う。

右主張後段のうち、本件ストライキの期間が昭和五〇年六月八日から同年一〇月二五日までであること、その間控訴人が昭和五〇年七月二日から同年一〇月二四日までロツクアウトをしたこと、被控訴人らのいう純然たるストライキ期間中に被控訴人らが本来就労すべき日に本件ストライキのため就労しなかつた日数はいずれも一〇日であつたことは認めるが、その余は争う。

二  被控訴人らは、次のとおり述べた。

(一)  控訴人の前記(一)の主張について

1 本件ストライキが違法であつた旨の控訴人の主張は、控訴人が本件訴訟を遅延させるために、故意に時機に遅れて当審においてはじめて提出した攻撃防禦方法であつて、これにより本件訴訟の完結が遅延することは必至であるから、その却下を申し立てる。

2 控訴人は原審において本件ストライキが正当な争議行為であることについて明らかに争つていなかつたものであり、控訴人の右主張は自白の撤回に当たるが、被控訴人らは右自白の撤回に異議がある。

3 控訴人の右主張の事実は争う。

釧労がその所属組合員に本件ストライキを実施させたのは、賃上げその他組合員の労働条件を改善するためであつて、その目的においてなんら違法なところはなく、本件ストライキを昭和五〇年六月八日から同年一〇月二五日まで継続しただけでこれが違法なものとなるいわれはない。本件ストライキが右のように継続したのは、主として、釧労と控訴人との交渉の過程において、控訴人が賃上げの附帯条件として、釧労としては到底承認できないような、勤務時間延長等の労働条件の切下げを逆提案したことによるのであつて、ひとり釧労側だけの事由によるものではない。

(二)  仮りに労基法第三九条一項にいう「全労働日」の中にストライキのため就労しなかつた日も算入されるべきであるとしても、少くとも労働者が使用者のロツクアウトによつて就労しなかつた日はこれに算入されるべきではない。

本件ストライキの期間は、昭和五〇年六月八日から同年一〇月二五日までであるが、この間昭和五〇年七月二日から同年一〇月二四日までは控訴人がロツクアウトをした期間でもあり、この期間は、本来就労すべき日であつても「全労働日」に算入されるべきでなく、従つて本件ストライキ期間中、本来就労すべき日であつて「全労働日」に算入されるべき日は、昭和五〇年六月八日から同年七月一日までの間及び同年一〇月二五日(以下、これを「純然たるストライキ期間」という)の中に含まれるもののみである。而して被控訴人らが、右純然たるストライキ期間における本来の労働日のうちストライキのため就労しなかつた日数はいずれも一〇日である。それでこの場合も被控訴人らはいずれもその全労働日の八割以上を出勤したことになる。

第三証拠関係<省略>

理由

一  控訴人がハイヤー、タクシー業を営む会社であり、被控訴人加賀谷毅は昭和四九年九月二一日から、被控訴人小池武は同年九月一九日から、被控訴人相木隆は昭和五〇年二月二日から、それぞれ控訴人に従業員として雇傭されたものであること、被控訴人らは、それぞれ控訴人に雇傭された日の翌日から一箇年間に別表出勤日数欄記載の日数は出勤し、右別表私病欠勤日数欄記載の日数は欠勤し(但しこれは被控訴人相木隆についてのみ)、別表スト不就労日数欄記載の日数はストライキにより就労しなかつたこと、被控訴人らがそれぞれ、右の雇傭された日の翌日から一年を経過した後の日であつて、労働日であつた右別表休暇年月日欄記載の日である二日間を労基法第三九条一項に基くものとして、事前に年次有給休暇として指定し(以下、これを「本件各年休指定」という)、それぞれ指定どおりに勤務を離れたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被控訴人らが、本件各年休指定をしたときに、労基法第三九条一項に基いて年次有給休暇を指定することができたものであつたか否かについて検討する。

(一)  先ず、前記一に判示したところによれば、被控訴人らが本件各年休指定をしたときに、いずれも労基法第三九条一項にいう「一年間継続勤務した……労働者」に該当したことは明らかである。

(二)  次に、被控訴人らが本件各年休指定をしたときに、前一箇年間に労基法第三九条一項にいう「全労働日の八割以上出勤した」労働者に該当したか否かについて検討する。

1  被控訴人らは、正当なストライキによる不就労日数は労基法第三九条一項にいう「全労働日」に算入すべきではない、と主張し、控訴人はこれを争う。よつて案ずるに、

労基法第三九条所定のいわゆる年次有給休暇は、わが国においても古くから恩恵的なものとして広く行われていた慰労休暇を、終戦後、同法を制定するに当たり、労働者の権利として制度化したものであつて、休日のほかに毎年一定日数の休暇を有給で与えることによつて労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持、培養を図ることを目的とするものであることはいうまでもないが、同法同条が、労働者が単に、前一箇年間継続勤務したということだけではなく、前一箇年間に「全労働日の八割以上出勤した」ことをも要件として年次有給休暇が与えられるべきものとしていることに鑑みると、同法同条による年次有給休暇には、一定期間継続勤務した労働者の勤勉な労働に対する報償という趣旨も含まれていることは否定し得ないところであり、労働者が前一箇年間に「全労働日の八割以上出勤した」か否かは、その勤怠評価の基準としての意味をもつものといわざるを得ない。

ところで一般に、労働日とは、労働契約上、労働者が出勤して労働すべきものと定められている日をいい、具体的には就業規則、労働協約等で労働日として定められた日のことであり、前一箇年間の全労働日とは前一箇年間の総暦日のうち所定の休日を除いた日の全部をいうものである。労働基準法第三九条一項にいう「全労働日」も、本来は、これをいうものであることは明らかである(以下、かかるものとしての全労働日を、「本来の全労働日」ということにする)。

そこで労基法第三九条の適用上、労働者が前一箇年間に、「全労働日の八割以上出勤」したか否かを見るに当つて、その労働者が正当なストライキによつて就労しなかつた日を右「全労働日」に含めるべきか否かについて考察するに、労働者が団体行動をする権利は憲法の保障するところであり(憲法第二八条)、労働組合法上も使用者は、労働者が争議行為としての正当なストライキを行なつたとしても、その労働者に対して民事責任を追及し得ない(同法第八条)のみならず、そのことの故をもつて不利益な取扱をしてはならないこととされている(同法第七条一号)のであるから、その労働者に対する勤怠評価においてもそのことの故をもつて勤務を怠つたと評価してはならないものといわなければならない。しかるところ、労基法第三九条の適用上、労働者が前一箇年間に「全労働日の八割以上出勤」したか否かを見るに当つて、その労働者が正当なストライキによつて就労しなかつた日を「全労働日」の中に含めることにすると、労働者は正当なストライキを行なつたがために勤務を怠つたと評価されるのと同様の結果を招来することになる。これは憲法ないし労働組合法の前示各法条の趣旨と調和しない。しかしながら他方、労働者が正当なストライキのために就労しなかつた日は「全労働日」に含まれないとの前提のもとに、労働者が実際に出勤した日数が「本来の全労働日」の八割をわる場合にも、労基法第三九条所定の要件が充足される限り、使用者はその労働者に対して所定の日数の有給休暇を与えなければならないものとすることは、前叙のとおり、同法同条所定の有給休暇には、一定期間継続勤務した労働者の勤勉な労働に対する報償という趣旨も含まれているものであることを無視してしまうものであつて、その無視の程度は、労働者が実際に出勤した日数が少なければ少ない程それだけ高まるものといわざるを得ない。

それで、労基法第三九条の前叙の如き立法趣旨及びこれと憲法や労働組合法における前示関係規定との調和を考慮して、労基法第三九条一項にいう「全労働日」の中には、労働者が正当なストライキのため就労しなかつた日数は含まれないものと解すると共に、労働者が同法同条同項によつて六労働日の有給休暇請求権を有する場合であつても、その出勤日数が「本来の全労働日」の八割をわる場合は、「本来の全労働日」の八割の六分の一に当たる出勤日数につき有給休暇一日の割合によつて、その全出勤日数についての有給休暇日数を算出し、これを超える日数の有給休暇請求権を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。

以下、右の見地に立つて判断することにする。

2  被控訴人らがそれぞれ控訴人から雇傭されてから一年間に、別表スト不就労日数欄記載の日数をストライキにより就労しなかつたことは、前記一に判示したとおりであり弁論の全趣旨によれば、右ストライキは、被控訴人らを含む、控訴人の従業員で組織する訴外釧路交通労働組合(以下、「釧労」という)が控訴人に対して行つたものであることが認められるが、被控訴人らは右ストライキが正当なものであつたと主張し、控訴人はこれを争つて右ストライキは違法なものであつたと主張する。被控訴人らは、控訴人の右主張は、当審ではじめてなされたものであつて、本件訴訟を遅延させるために故意に時機に遅れて提出された攻撃防禦の方法であるとして、その却下を申し立てるが、控訴人が右主張(これは、右ストライキを正当なものとする被控訴人らの右主張に対する積極否認である。)を故意又は重大な過失に因り時機に遅れて提出したものとは認め難いから、爾余の判断をなすまでもなく被控訴人らの右申立は失当である。よつてこれを却下する。また、被控訴人らは、控訴人は原審において右ストライキが正当な争議行為であることについて明らかに争つていなかつたものであるから、控訴人の右主張は自白の撤回に当たるとし、右自白の撤回には異議があるというが、仮令、控訴人が原審において右ストライキを正当な争議行為とする被控訴人らの主張を明らかに争つていなかつたとしても、控訴人が当審でこれを争うことはなんら妨げられないから、爾余の判断をなすまでもなく右異議は失当である。そこで右ストライキが正当なものであつたか否かについて案ずるに、成立に争いのない甲第一、第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一ないし四号証の各記載及び弁論の全趣旨によれば、右ストライキは、要するに、釧労が控訴人に対して、賃上その他組合員の労働条件の改善を要求しこれを実現することを目的として行なつたものであつたと認められ、従つて争議行為として正当なものであつたと認められる。右ストライキが、仮令、控訴人主張の如き控訴人の経営状態のもとにおいて行われたとしても、或いは釧労が控訴人主張の如き、控訴人から見て過大と思われる要求を掲げてこれを行なつたものとしても、はたまたそれがその主張の如き経過を辿つて終り、釧労としてはその目的を貫徹することができなかつたものであるとしても、そのことの故に右ストライキが違法であつたと認めることはできず、これが正当であつたという前示判断がかわるものではない。

3  右のとおりとすると、被控訴人らのストライキによる前記の不就労日数は、労基法第三九条一項にいう「全労働日」には算入されるべきではないことになるが、そうすると、本件各年休指定をしたときの前一箇年間における被控訴人加賀谷毅の全労働日は前判示のその出勤日数と同一日数の二一〇日となつて、その出勤率は一〇〇パーセントとなり、被控訴人小池武の全労働日は前記出勤日数と同一日数の二一一日となつて、その出勤率は一〇〇パーセントとなり、被控訴人相木隆の全労働日は前記出勤日数一七五日と私病欠勤日数三日を合計した一七八日となつて、その出勤率は九八パーセント(一パーセント未満切捨)となり、被控訴人らはいずれも前一箇年間に「全労働日の八割以上出勤」したことになる。

(三)  以上のとおりであるから、被控訴人らは、本件各年休指定をしたときに、控訴人に対して労基法第三九条一項による年次有給休暇請求権を有したものと認められる。

(四)  なお、被控訴人らが本件各年休指定をしたときの前一箇年間における「本来の全労働日」日数が三〇〇日であつたことは弁論の全趣旨によつて明らかであるが、右三〇〇日の八割(二四〇日)の六分の一(四〇日)の出勤日数につき有給休暇一日の割合によつて、被控訴人ら各自の前一箇年間における前示の全出勤日数についての有給休暇日数を算出すると、それがいずれも少なくとも二日を超えることになることは計数上明らかであるから、被控訴人らの本件各年休指定によるその年次有給休暇請求権行使は、控訴人に対し信義則に反するものでもなければ、権利の濫用と目されるべきものでもない。

三  以上のとおりであるから、被控訴人らのした本件各年休指定により、被控訴人らの年次有給休暇はその指定のとおりに成立したものであり、従つて控訴人は被控訴人ら各自に対して右年次有給休暇の期間につき所定の賃金を支払うべき義務がある。

四  そこで、被控訴人らの本件各年次有給休暇期間の賃金額、その支払期について案ずるに、

釧労と控訴人との間には、年次有給休暇期間の賃金(年休手当ともいう)の計算方法について、これを基本給部分と仮想歩合給補償部分の合算額とし、基本給部分は一日八時間、二五日間稼働を基準として基本給月額から時間給を算出して年次有給休暇期間(時間)に相当する賃金額を計算し、仮想歩合給補償部分は、仮想稼働高二万円の三三パーセントとする旨の協定が締結されていたこと、被控訴人らが本件各年次有給休暇をとつた時の基本給月額がいずれも金七万九〇〇〇円であつたことはいずれも当事者間に争いがなく、右事実によれば、被控訴人らの本件各年次有給休暇期間の賃金額は、次の計算式によりいずれも金一万二九二〇円となる。

計算式 (79,000円/25×8×16)+(20,000円×0.33)=6,320円+6,600円=12,920円

ところで、控訴人がその従業員に対し、毎月二七日にその月分の賃金(各種手当を含む)を支払うことになつていたことは当事者間に争いがないから、控訴人は釧労の組合員である被控訴人ら各自に対し、本件年次有給休暇期間の賃金一万二九二〇円を、本件各年次有給休暇の直後の賃金支払日である別表賃金支払日欄記載の日に支払う義務を負つたことになる。

五  次に、釧労と控訴人との間には、釧労の組合員の精勤給に関し、控訴人は一箇月間無事故精勤者に対し金四〇〇〇円、一箇月間に一勤務(暦日で二日間に相当する。)のみ欠勤した者に対し金二〇〇〇円の各精勤手当を支払う旨の協定が締結されていたこと、被控訴人らがいずれも本件各年次有給休暇の二日間を除き当月一箇月間欠勤せず無事故であつたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右協定において、適法な年次有給休暇の期間は、右精勤手当の計算上、欠勤しなかつたものとして処理されることになつたものと推認される。而して、被控訴人らの本件各年休指定による二日間の年次有給休暇が適法なものであつたことは前判示のとおりであるから、被控訴人らが本件各年次有給休暇をとつた日の属する一箇月間の精勤手当の計算上は、被控訴人らはすべて精勤したことになる。

よつて、控訴人は被控訴人ら各自に対し右精勤手当金四〇〇〇円を前判示の賃金支払日に支払う義務を負つたことになる。而して控訴人が被控訴人ら各自に対し右精勤手当として金二〇〇〇円宛支払つたことは当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば、被控訴人らが本訴で請求している精勤手当はその残額であることが明らかである。

六  以上のとおりとすると、控訴人は被控訴人ら各自に対して、前記四記載の本件各年次有給休暇期間の賃金一万二九二〇円及び前記五記載の精勤手当の残金二〇〇〇円の合計金一万四九二〇円及びこれに対する各その弁済期である別表賃金支払日欄記載の日の翌日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務を負うものであるから、控訴人に対して右義務の履行を求める被控訴人らの本訴請求はいずれも理由があり、これを正当として認容すべきである。

七  よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条一項に則つてこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

(別表)

原告名

出勤日数

スト不就労日数

私病欠勤日数

休暇年月日

(昭和・年・月・日)

賃金支払日

(昭和・年・月・日)

加賀谷毅

二一〇日

九〇日

なし

五〇・一一・二七

五〇・一一・二八

五〇・一二・二七

小池武

二一一日

八九日

なし

五一・三・二八

五一・三・二九

五一・四・二七

相木隆

一七五日

一二三日

三日

五一・二・一三

五一・二・一四

五一・二・二七

原審判決の主文、事実及び理由

主文

1 被告は原告らに対し、それぞれ別紙目録請求金額欄記載の金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告ら

主文1、2項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言

二 被告

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二原告の請求原因

一 原告らは、旅客運送事業を営む自動車会社である被告会社に、原告加賀谷につき昭和四九年九月二一日から、原告小池につき同年九月一九日から、原告相木につき昭和五〇年二月二日から、それぞれ従業員として雇傭され、以後継続勤務している。

二 原告らは、それぞれ雇傭された日の翌日以後一年間に、別表就労日数欄記載の期間出勤したところ、別表私病欠勤日数欄記載(原告相木についてのみ)の期間欠勤しただけで、別表スト不就労日数欄記載の期間はストライキにより就労しなかつたに過ぎない。したがつて、労働基準法(以下、単に労基法という。)三九条一項所定の全労働日は、原告加賀谷、同小池につきいずれも前記出勤日数と同日数、原告相木につき前記出勤日数および私病欠勤日数の合計日数(一七八日)と算定されるべきであるところ、計算上、原告らは、いずれもその全労働日の八割以上を就労したことになるので、入社以来初めて、それぞれ勤務を命ぜられていた別表休暇年月日欄記載の各期間(以下、単に本件各年休という。)につき、同法に基づき、事前に年次有給休暇(以下、単に年休という。)と指定し、それぞれ指定どおり勤務から離れた。

三 被告会社は原告らに対し、毎月二七日にその月の賃金を支払うことになつているが、本件各年休を欠勤として扱い、別表賃金支払日欄記載の日につぎの各手当(賃金)を支払わない。

1 年休手当 各金一万二、九二〇円

原告らが所属する訴外釧路交通労働組合と被告会社は、有休手当の算定方法について、基本給部分と仮想歩合給補償部分を合算することと定め、基本給部分は、一日八時間二五日間稼働を基準として基本給から時間給を算出して年休期間(時間)に相当する賃金額を計算し、仮想歩合給補償部分は、仮想稼働高二万円の三三パーセントとする旨定めている。原告らの基本給は、いずれも七万九、〇〇〇円であるから、本件各年休手当は金一万二、九二〇円である。

計算式 (79,000/25×8×16)+(20,000×0.33)=12,920

2 無事故精勤手当 各金二、〇〇〇円

前記釧路交通労働組合と被告会社は、右組合員の精勤給に関し、一か月間無事故精勤者に対し金四、〇〇〇円、一か月間に一勤務(暦日で二日間に相当する。)のみ欠勤した者に対し金二、〇〇〇円の各手当を支払う旨協定しているところ、原告らは、いずれも本件年休各二日間を除き、当月一か月間無事故で精勤したから、被告会社は原告らに対し、無事故精勤者としてそれぞれ各金四、〇〇〇円の手当を支払う義務があるにもかかわらず、右各年休を欠勤として扱つてそれぞれ精勤給金二、〇〇〇円を支払つただけで、残額各金二、〇〇〇円を支払わない。

四 よつて原告らは被告に対し、それぞれ右三項掲記の年休手当および精勤手当合計金一万四、九二〇円およびこれに対する弁済期の翌日(原告加賀谷につき昭和五〇年一二月二八日、原告小池につき昭和五一年四月二八日、原告相木につき同年二月二八日)から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁および主張

一 請求原因一項の事実は認める。

二 同二項の事実は認める。但し、労基法三九条一項所定の全労働日が原告ら主張の日数であるとの点を争う。

三 同三冒頭および1、2項の事実はすべて認める。但し、同三2項中、被告会社が原告らに対し、それぞれ無事故精勤手当金四、〇〇〇円を支払う義務があるとの点を争う。

四 (被告の主張)

労基法三九条一項所定の全労働日には、以下1ないし3の理由により、ストライキの期間も算入されるべきであるから、これによれば、原告らに関する全労働日は、いずれも三〇〇日と計算され、原告加賀谷の全労働日に対する出勤率は七〇パーセント、同小池のそれは七〇・〇三パーセント、同相木のそれは五八・三パーセントであつて、いずれも同条所定の八割以上出勤したものに該当しないので、年休を取得することはできない。

1 労基法三九条所定の年休制度の本旨は、労働契約が生きた人間の労働力の売買を内容とするものであるところから、憲法二五条の精神にしたがい、同法二七条二項を具体化するものとして、労働者に賃金を得させながら一定期間労働者を就労から解放することによつて、継続的な労働力の提供から生ずる精神的肉体的消耗を回復させるところにあり、労基法三九条一項は、労働者の回復されねばならない精神的、肉体的な消耗の発生基準を具体的に示したものと解すべきである。してみれば、右のような消耗の発生基準たる就労率八割以上の労務の提供がないかぎり、使用者がその労働者に対し、年休を付与すべき義務はないといわなければならない。原告らについては、既にストライキその他により右就労率を相当下回る不就労日がある以上、回復されるべき精神的、肉体的消耗は存しないのであるから、被告会社は原告らに対し年休を付与すべき義務はない。

2 労働組合法は、正当な争議行為を保障しているが、これは労働者が対使用者交渉において対等の地位を確保することを目的としているのであつて、労基法三九条の年休制度は継続労働により失なわれた労働力の再生産を図ることを目的としているのであるから、両者の保護法益は明らかに異つている。正当なストライキといえどもそのための労務不提供期間に対し賃金カツト等が許されているのは、現実に労務の提供がなかつたためであり、ストライキを理由としたものではない。同様に、ストライキ期間を全労働日から除外しないために年休が付与されないことになつても、それは現実に回復されるべき労働力の消耗が存しないことに由来するのであり、ストライキに対する報復措置ではなく、また、ストライキ期間を勤怠評価の対象とした不利益取扱いでもない。

3 仮に労基法三九条一項所定の全労働日には、ストライキによる労務不提供日数を算入しないということになれば、使用者は労働者に対し、全労働日のうち九九パーセントから一〇〇パーセントに相当する日数をストライキにより就労しなかつた場合でも、年休を付与しなければならないことになるが、年休は在籍していれば当然に得られる権利ないし報償ではなく、勤怠評価の結果により付与されるものでもないから、労務の提供がなく、しかも使用者の責によつて回復されねばならない消耗がないにもかかわらず、使用者に年休付与義務を課すのは年休制度本来の趣旨を逸脱している。

第四被告の主張に対する原告の反論

一 原告ら主張のストライキによる不就労は、正当なストライキによるものであるところ、ストライキは労働者側の就業拒否であり、形式的にはその期間は労基法三九条一項の労働日たる性質を有するが、もともとストライキの期間は、労働組合法上労働者の権利行使期間として保護されており、労働者の勤怠決定の対象たるべき期間と同一視することは妥当でないから、ストライキによる不就労期間は同法所定の全労働日から除外すべきであり、この理は昭和三三年二月一三日付基発九〇号労働省労働基準局通達によつて明らかにされている。

二 仮に、ストライキ期間は全労働日に算入できないとする原告らの主張が採用されないとしても、被告会社は、昭和五〇年七月二日、原告らの所属する訴外釧路交通労働組合に対しロックアウトを通告し、同年一〇月二四日にこれを解除するまで継続して原告らの就労を拒否したのであるから、右期間は、使用者の責に帰すべき事由による休業ないし不可抗力による休業と同様に全労働日から除外されるべきである。これによれば、原告らが全労働日の八割以上出勤したことは計算上明らかである。

第五原告の予備的反論に対する被告の答弁

原告の反論二(ロツクアウト)の事実は認めるが、その法律的主張は争う。

第六証拠関係<省略>

理由

一 請求原因一項(原告ら身分)、同二項(原告らの出勤日数、ストライキ等による不就労日数、年休の指定等)の各事実は当事者間に争いがない。

二 原告らは、まず、労基法三九条一項所定の全労働日にはストライキによる不就労期間を算入すべきでないから、原告らの右各出勤日数が全労働日の八割以上にあたることとなり、したがつて年休を取得する権利を有する旨主張し、これに対し被告は、同条所定の全労働日からストライキによる不就労日を除外すべきではないから、原告らの右各出勤日数が全労働日の八割に満たないこととなり、したがつて年休を享受しえない旨反論するので、以下この点について判断する。

1 年休制度の趣旨は、労働者をして一定期間賃金の保障を受けさせながら労務から離脱できることとし、その自由な休息により過去の労働による精神的、肉体的疲労を回復させ、これにより労働力の維持培養を図り、あわせて健康な最低限度の生活を保障することにあるところ、このような制度の基盤は、使用者にとつて一定期間の継続勤務者に対してその提供された勤勉な労働につき慰労を与えるべき物質的、精神的条件が具備されていることに拠るものといえる。そして、労基法三九条一項は、右のごとき年休を付与するに値する勤怠評価の基準を、全労働日の八割以上の出勤率と定め、欠勤の多い者を除外すべく右出勤率を保有する労働者に限定して年休を享受する権利を与え、また、同条五項は、労働者が休業した期間のうち右出勤の算定にあたり出勤したものとみなす特定のものを掲記している。これら年休制度および労基法の趣旨等からすれば、出勤率の算定の基礎となる全労働日とは、労働者が労働協約・就業規則等により労務の提供を義務づけられ、かつ、その出勤が労使間で予定されているために、労務の提供ないし不提供が出勤ないし欠勤のいずれかに取扱われて勤怠評価の対象となるすべての日をいうものと解することができる。

2 ところで、労働者が就労義務のある日にストライキにより労働しなかつた場合、労働者は、右ストライキ期間中その労働義務を免れうる筋合ではないが、正当なストライキが労働者の権利として許容され、これによつて使用者に加えた損害について使用者に対し債務不履行責任を負わないものとされており(労働組合法八条)少なくともその限りにおいて、右ストライキ期間中労使間において労働者の出勤が予定されなくなるのであるから、その労務不提供をもつて出勤とも欠勤とも扱われず、したがつて右期間は勤怠の状況を評価しうる対象となしがたい。それ故、正当なストライキの期間は、労基法三九条一項所定の全労働日に算入されるべきではないといわざるをえない。もつとも、前述の年休制度の趣旨および基盤等に鑑ると、長期間にわたるストライキが行われたために全労働日が平常年次に比較して極めて少ないため、社会通念上、継続勤務者が一年間に出勤する日数として異常に僅少と認められ、出勤日数、出勤率等諸般の事情から、もはや年休を付与すべき実質的合理的な理由が失われるような場合には、労働者が使用者に対し所定の出勤率を有するものとして年休の権利を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されないものというべきである。

3 これを本件についてみるに、被告は原告らのストライキによる不就労が正当な争議行為によるものであることについて明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、この事実と前記争いのない事実によれば、原告らに関する全労働日は、原告らが労働を義務づけられた日数合計三〇〇日からストライキの期間を控除した日数、すなわち、原告加賀谷につき二一〇日、原告小池につき二一一日、原告相木につき一七八日とそれぞれ算出されるところ、原告加賀谷、同小池の各出勤率は一〇〇パーセント、原告相木のそれは九八・三パーセントであつて、いずれも所定の出勤率を優に充足していることが明らかであるから、原告らは労基法三九条一項所定の年休をその有する休暇日数の範囲内で享受する権利があるものというべきである。しかるところ、原告らはいずれも入社以来初めて年休を指定したものであり、原告らの右各全労働日数は、平常時に比べて原告加賀谷、同小池につき七〇パーセント(小数点以下切捨て)、同相木につき五九パーセント(小数点以下切捨て)に相当すること、その他原告らの出勤日数、出勤率等諸般の事情からみて、右権利の行使が信義則に反し権利の濫用であると断ずることはできないものと考えられるから、原告らは所定の年休を有効に取得しうる筋合である。そして被告は、原告らの本件各年休の指定に対し、労基法三九条三項所定の時季変更権を適法に行使したことの主張、立張がないから、本件各年休は原告らの指定どおり成立したものといわざるをえない。したがって、被告は原告らに対し、本件各年休期間につき所定の賃金を支払う義務を免れることができない。

三 請求原因三項冒頭(賃金支払日等)の事実は当事者間に争いがなく、また、

1 同三の1項(賃金額)の事実につき当事者間に争いがないから、これによれば、被告は原告らに対し、本件各年休期間の賃金額各金一万二、九二〇円を、本件各年休の成立した直後の賃金支払日である別表賃金支払日欄記載の日に支払う義務があり、

2 同三の2項(無事故精勤手当等)の事実につき当事者間に争いがなく、年休期間が右精勤手当支給の基準となる精勤日として計算されることは弁論の全趣旨に徴して明らかであるから、これによれば、前述のとおり本件各年休が有効に成立した以上、原告らが本件各年休期間を精勤したものと扱われるべきであつて、したがつて、被告は原告らに対し、無事故精勤手当残額金二、〇〇〇円を前記賃金支払日に支払う義務があるものというべきである。

四 よつて、被告は原告らに対し、それぞれ、年休の賃金一万二、九二〇円および精勤手当残額金二、〇〇〇円の合計金一万四、二九〇円およびこれに対する弁済期である別表賃金支払日欄記載の日の翌日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなす義務があるから、原告らの本訴各請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙) 目録

原告名

請求額

加賀谷毅

金一万四、九二〇円およびこれに対する昭和五〇年一二月二八日から右支払ずみまで年五分の割合による金員

小池武

金一万四、九二〇円およびこれに対する昭和五一年四月二八日から右支払ずみまで年五分の割合による金員

相木隆

金一万四、九二〇円およびこれに対する昭和五一年二月二八日から右支払いずみまで年五分の割合による金員

(別表)

原告名

就労日数

スト不就労日数

私病欠勤日数

休暇年月日

(昭和・年・月・日)

賃金支払日

(昭和・年・月・日)

加賀谷毅

二一〇日

九〇日

なし

五〇・一一・二七

五〇・一一・二八

五〇・一二・二七

小池武

二一一日

八九日

なし

五一・三・二八

五一・三・二九

五一・四・二七

相木隆

一七五日

一二三日

三日

五一・二・一三

五一・二・一四

五一・二・二七

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